北九州市立大学ビジネススクールの授業が始まりました。マーケティングの授業では「マーケティング5.0」の話が特に印象に残りました。今回は、授業で学んだ内容を、自分の実務に引きつけながら整理してみたいと思います。
マーケティング1.0~5.0
マーケティングには、1.0から5.0までの変遷があります。大まかに言えば、次のように理解できます。
マーケティング1.0は、製品中心の発想です。良いものを作り、広く届けることに重きが置かれます。
2.0は顧客中心で、顧客ニーズを捉え、セグメントごとに適したアプローチを考える段階です。
3.0は価値観や社会性も重視し、企業の理念や姿勢が問われるようになります。
4.0では、デジタル化の進展によって、オンラインとオフラインをまたいだ顧客接点が重要になります。
そして5.0では、テクノロジーやデータを活用しながら、人間中心の体験や価値提供を実現していくことが重視されます。
マーケティング5.0とDX
私は普段、DX推進やデータ活用に関わる仕事をしています。そのため、授業の中で語られたマーケティング5.0の内容には、どこか既視感がありました。新しい概念に触れたというよりも、普段DXの文脈で話していることが、マーケティングの側ではこう整理され、体系化されているのか、と腑に落ちた感覚でした。
授業を通じて改めて感じたのは、マーケティングが1.0から5.0へと単純に置き換わってきたわけではない、ということです。かつては限られたデータと統計をもとに市場を捉えていたものが、時代の変化とともに、POSデータ、属性情報、SNSデータ、さらにはセンサーデータのような多様で大量の情報を扱うようになってきました。その延長線上に、一人ひとりに近づいていく「セグメント・オブ・ワン」のような発想があるのだと思います。
現実的なステップ
ただ、ここで重要なのは、マーケティング5.0のような先進的な考え方を知ったからといって、現場がすぐにそこへ進めるわけではない、ということです。
これは自社や、自分が関わる組織を見ても感じるところです。DXの文脈では先進的な話をしていても、実際に組織の運営や日々の実務の中で、それが十分に活かされているかというと、必ずしもそうではありません。むしろ外から見れば、まだマーケティング2.0と3.0の間くらいにいる組織も少なくないように思います。そして、その2.0や3.0にあたる基本的な取り組み自体が、十分に徹底されていないこともあります。
そう考えると、いきなり5.0を目指すことが大切なのではなく、まずは2.0や3.0の水準をしっかり実装し、定着させることの方が重要なのではないかと感じました。顧客をきちんと捉えること。価値観や関係性も踏まえて伝えること。必要なデータを蓄積し、活用できる状態に整えること。そうした土台があってはじめて、4.0や5.0の考え方も現実のものになります。
授業では、マーケティング1.0も、必要な場面では今でも使われるという話がありました。これはとても重要な視点だと思います。であれば、2.0以降についても同じで、ある時代の考え方が完全に消えるのではなく、状況に応じて使い分けたり、組み合わせたりしながら実践されているはずです。実務の現場では、常に最新の考え方だけが単独で使われているわけではありません。
むしろ大切なのは、自分たちの組織がいまどの段階にいて、何が足りていないのかを見極めることだと思います。理論として5.0を知ることには意味がありますが、それ以上に重要なのは、現場の成熟度に応じて何から取り組むべきかを見誤らないことです。
今回の授業は、マーケティングの変遷を学ぶ機会であると同時に、自分たちの現在地を考え直す機会にもなりました。DXやAI活用の議論でも同じですが、先進的な概念を語るだけでは前に進みません。どの段階にいる組織に対して、どこから積み上げていくのか。そこを見極める視点が大切なのでしょう。
今後も折に触れて授業で得た知識と、自分の専門分野、実践から得た経験などを踏まえた文章を「MBAノート」として書いていきたいと思います。
